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簿記と、経済の地下水路

 歴史を学ぶのは苦手です。

 歴史の中にあるのは、うんざりするような戦いの記録です。そのようなものを学んでも少しも楽しくありません。誰が誰を支配し、どの民族がどの民族を制圧した。歴史はそうした出来事がいっぱいで、心が重くなってしまいます。

 経済史はずいぶんましですが、これもまた痛ましい出来事が目立ちます。16世紀からの三角貿易の話を聞く時は、体調が悪くなりそうです。その三角貿易はイギリスの産業革命の資金源となり、産業革命を経たマルクスの時代には、炭鉱で働く「日曜っ子」たちの登場です。
 その一方で科学技術の発展により、現代のような豊かな時代に進んでもいきますが…。

 科学技術の発展には、NHKの「プロジェクトX」を見ているような楽しさがありますが、とにかくこのような激しいドラマは、よほど精神がタフでなければ耐えられません。私はそういう理由で、歴史が苦手です。過去よりも、未来を考える方が楽しいと思います。

 ところが会計の歴史という世界は、意外にも大変静かなものでした。そこには地上の歴史に見られるような、騒々しさも、血なまぐささもありませんでした。

 しんとした世界の中に、まるで時々金属がかすかに音をたてるような、静寂に満ちた世界です。どこか宮崎駿監督のアニメーションに出てくるような、地下の世界と似ています。この世界には生々しいものはあまりなく、数値だけが静かに動く世界です。

 音が無く、地上におけるようなリアリティが遠ざかり、ただただ静かに計算が行われ、その技法が洗練されてきた世界です。

 いつの間にか私は、簿記という技術を見つめるようになりました。

 簿記は、お金とは何かを雄弁に語ります。

 簿記の世界では、お金はどこまでいっても現金または預金でしかなく、それ以外の財産とは混ざりません。この世界では、お金は簿記の中心となる存在です。

 簿記を見ていると、お金には流れがあることがわかります。それは水路のように、静かな水音をたてながら、お金が世の中のある方向に流れているのです。

 私は水音に沿って、一人で地下水路を歩き始めました。

 ここでは地上の喧噪が聞こえません。目まぐるしい、実体のある経済の世界の地下にある、「お金」とは大きな地下水路です。

 もしも世界中のすべての経済主体が、ある時点でいっせいにそれぞれの貸借対照表を作った時、それらの現金と預金の総和は、世界中のすべての中央銀行と市中銀行が発行したお金の総和と等しくなると思います。

 差額が出るとしたら、それは海に落ちたお金や、野に捨てられたお金、あるいは忘れられて数えてもらえなかったお金です。

 地下水路は一定の方向に流れています。水を追っていくと地下はどんどん深くなり、だんだんとひんやりしてきます。

 水路は社会の血液です。水路が枯渇した地上では、植物が生命を失うように、人びとは交換に支障をきたし、うなだれています。水流が活発な地域では、地上の人びとが繁栄しています。

人びとは、地下水路でつながりあっているのです。

 健全な経済においては、お金が移動する時は、地上でも何かの生産物が、お金と反対方向に移動します。

 ところが地上の交換に関係なく、地下だけでお金が移動する世界が広がっています。いわゆるマネー経済の世界です。マネー経済の世界はもはや大変大きくなっていて、その上の地上は荒野です。

いつのまにか世界のお金の大部分が、実体のある経済活動とは関係ない、マネー経済のお金になってしまいました。実体のある経済活動は、相対的な水量減少によって縮んでいます。

 地域通貨というのは、水路が枯渇している場所に、新しい地下水路を作って水を流そうとする試みです。

 水路は暗く、誰にも会いません。
 
大変孤独な旅になりました。

 簿記は、地上の世界と地下水路をつなぐ結節点です。地上の経済活動は数値化され、簿記にうつし出された後、その数値は世の中のある方向に流れていくのです。

 水音が、私を誘います。

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コメント

そうです。
会計は静かなものです。

投稿: 友岡賛 | 2010年4月30日 (金) 10時04分

友岡賛先生
お忙しい中、コメントをどうもありがとうございます。

そうですね。
イメージで物事を決めてしまってはいけなかったと思います。

今は簿記という技法を、とても興味深く感じます。
ありがとうございます。

投稿: みほれみ | 2010年4月30日 (金) 10時48分

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