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「気の強い姫君」が見る世界

 お天気の良い11月のある日、古典の「とりかえばや物語」をベースにした小説を読みました。 「ざ・ちぇんじ!」(氷室冴子著)という少女向けの楽しいお話です。sun

 

*以下、ネタバレしますのでご注意くださいネ!

 

 時は平安、所は京。shine

 

 家柄の良い権大納言には大変美しい男の子と女の子がいるのですが、ところがこの二人はそれぞれ、本来の性別と性格がまったく反対の若君と姫君です。

 

 活発な姫君はやむなく男の子として育てられ、繊細な若君も諸事情によってやむなく、女の子として育てられます。

 

 そのうちに姫君は男として帝に仕えることとなり、若君もまた女として女東宮の尚侍となるのですが、どちらもその美しさからつねに人々の評判を集めます。

 

 ところがあることから、姫君である綺羅(きら)中将は自分が妊娠したものと思い込み、人に知られることをおそれて、都から姿を消してしまいます。また若君も帝から直々に女御入内が決められてしまい、いくら姿は美しくても、本来は男なのでどうしても入内は受けられず…。

 

 やむなく若君は男の姿に戻り、いなくなった姉である姫君を探しに出ますが、不思議なほど姫君の消息がわかりません。

 

 失踪の理由を知らない若君は、もしかしたら姉は入水でもしてしまったのではないかと、ありえないことまで考え、胸まで苦しい思いで宇治川のあたりに立ち寄ります。

 その時、どこか遠くから、女同士の激しく言い争う声が聞こえてきました。

 

(以下、引用です。)

 

都育ちで、女が怒鳴り合うなどお目にかかったことのない弟君は、ひょいと小柴垣から隙見した。

 

「なにさ、こんな子魚ばかりじゃ、芋を一籠まるまるってわけにゃいかないわ」

「ボるんじゃないよ、あんた。あたしを甘く見る気かい!? そんなやせこけた芋なんて、二籠でも少ないよ。どうやったら、そんな病気持ちみたいな芋ばっかり掘れるのか、教えてもらいたもんだよ、芋娘!」

「な、な、なんてこというのよ。あんたが採ってくる泥魚なんて、芋一本分もありゃしないんだよ。それを、あたいが芋や塩に替えてやってんじゃないか」

「へっ、塩が聞いてあきれら。半分は砂じゃないかよ。それともなにか?宇治の辺りじゃ砂を塩というのか」

「は、半分!? よ、よくもそんなこといえたもんだわね」

 

 実にどうも、ものすごい修羅場に出くわしたらしい、と弟君はあっけにとられた。

 芋がどうのこうのというところを見ると、芋を争っているのだろうが、どうしてあんなもので、ここまで罵り合うのか、よくわからない。

 しかし、どうみても芋娘の方が負けてるのは確かだった。

 芋がどうの塩がどうのと叫びまくっている女の顔は見えないが、すごい迫力である。

 

(引用、中略。そのうちに罵り合いはさらに高まって…?!)

 

(以下、引用、再び)

 

 「この、クソ女! そのへらず口、閉じさせたるぞっ」

 怒鳴り声と一緒に、バシーンというすさまじい音がして、芋娘が、抱えていた籠ごと横っとびに吹っとんだ。

 ばらばらと、あたり一面に芋が転がり、芋娘はおんおん泣きながら芋を拾い集め、逃げるように走り去った。

<すげえ女だなァ……。どういう魚(うお)採り女だ。>

 弟君は呆れ返って、思わず小柴垣から身をのり出した。

 

(引用終わり)

 

 もちろん、この<すげえ女>と弟君が呆れ返った魚採り女こそ、かつては都で評判の美貌の公達であった左大臣家の若君、綺羅中将の「今」の姿であり、弟君の「姉さん」です!(笑)

 

 この後弟君は、姉の作ってくれた芋粥♪をすすりながら、失踪の事情を聞いていると、さらに呆然とさせられる話が続きます。

 

 都から失踪した綺羅姫は、宇治の河原で空腹を感じ、食べ物を持ってくれば良かったと思いながら川を見ていたところ、身投げ女と間違われ、あわてて助けようとした通りすがりの僧と一緒に川に落ちてしまい、あやうく死にそうになったと言うのです。

 

 「死ぬとこって、姉さま、死ぬつもりで宇治に来たんじゃないの」と言う弟君に、「んまあ!冗談はよしのすけよ」と姉君はけらけら笑い飛ばします。sun

 

 どこか人しれないところで子どもを生んで、母子二人で物売りでもしながら、「雄々しく(?)」生きていく決心だったと言うのです。

 

 「そ、そうだよな。姉さまなら、どうしたって、身投げよりは物売りだよなあ」と弟君はそれまでの心配など吹き飛び、いたく納得するのでした。

sun(^^;)sun

 以下、物語の世界から抜け出して、現実の世界に戻りますと…。

 

 私はこの物語に出てくる「気の強い姫君」というイメージに、どこかほっとするような気持ちを感じます。

 

 私自身は気の強さとはほど遠く、むしろ、めそめそと内向きな性格で、強い女性とはまったく気が合わないタイプですが…。

 

 女性という性はどうしても社会の中では立場が弱く、社会はまだまだ男性優位です。

 そうした過度期の社会を進んで行くために、どうしても女性も激しい強さを見せなくてはいけない時がある。shine

 その時には世の中の古い価値観というものを、それこそ巨大な芋籠(?!)でもひっくり返すようにして、根底から覆してやらなくてはいけない時もある。sweat01

 

 そういう何かを感じているからなのかもしれません。

 

 氷室冴子さんの楽しげな世界に引き込まれ、お腹を抱えて笑いながら、綺羅姫の「男にも負けない強さ」に胸のすくような思いを感じた午後でした。sun

*リンク先はWikiの「ざ・ちぇんじ!」です。
(^^)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%96%E3%83%BB%E3%81%A1%E3%81%87%E3%82%93%E3%81%98!

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