« 違法性よりも暴力性の方が問題です。 | トップページ | 言葉の解像度 »

本:「会計学の誕生」(渡邉泉著)

 3月の、会計の歴史のレポートを書いていた時に手に取りました。

 

 その時はレポート用に必要なところだけを読んでいたのですが、今はもうレポートを書く必要もないので、のんびり自分のペースで読んでいます。

 

 800年にわたる会計の歴史が書かれてある本ですが、おもしろいです。shine

 

 というのは、簿記や会計というのは人間の社会における「制度」なので、制度がどのように変遷してきたかということばかりに着目して説明をされてしまうと、どこか地に足がつかないような感覚でつまらなくなってしまいます。

 

 ところがこの本は、つねにつねに(!)、地に足がついた感じでつづられていくのです。

 

 13世紀の出来事を読みながら、それなのに現代につながる「人の気配」が感じられるというところは、私にとってはとてもおもしろい会計の本です。

 

 写真や表も具体的で、読んでいるとまさに著者に案内されながら、800年の時間を昔からたどってくるような楽しさがあります。

 

 世界最古の帳簿の写真、スンマの写真、ステフィン、アダム・スミスの像の写真など、文章の合間に織り込まれた写真は、白黒であってもきれいで楽しめます。shine

 

 私がとくに親しく思ったのは、19世紀半ばのイギリス、ダウライス製鉄会社の比較貸借対照表の部分です。この当時はまだ、キャッシュ・フロー計算書は作られていませんでした。

 

 ダウライス製鉄会社は1863年、財務諸表上で利益が出ていたので安心して、新しい溶鉱炉の建設に着手します。ところがいざ、代金を払おうとすると、現金がないことに気がつき、工場長は驚き頭を抱えます。(!)

 

 財務諸表上ではたしかに利益は出ていたはずなのですが、「利益はどこに消えたのか?!」です。(まるで、ミステリー!!!)

 

 現代であればこそ、そこで何が起こっていたのかは、すぐに思いつくことかもしれません。でも当時は、それは「驚くべきこと」でした。

 

その後、ダウライスの工場長は業績が回復した後で、その時の「謎」を解くために、業績が不振だった時と、回復した時との比較貸借対照表を作ります。そして次のような言葉を取締役に手紙で伝えるのです。

 

同書、136ページより、引用始め

 

 利益だと思っていたのが、実は、お金ではなく在庫であることに比較貸借対照表を作って初めて気がつきました。

 

引用終わり

 

!!!

 

 これは、キャッシュ・フロー計算書の必要性について理解したい経理事務員にとっては、すごく伝わりやすい表現ではないでしょうか?

 

 貸借対照表というのは、現金以外の資産も含んでいるので、資産から負債をマイナスした結果の利益が大きく算出されても、そのわりに、資産の中の現金部分は案外少ししかなかったということも起こり得るのです。

 

ダウライス製鉄会社の場合は、資産の中では在庫が金額的に大きかったため、貸借対照表上では利益は出たものの、資産の中の現金の部分が少なかったので、支払いには足りなかったということです。

 

製鉄会社という大きな事業において、このようなことが起こったら、本当に驚いたことだろうと思います。まさに「利益はどこに消えたんだ?!」と、財務諸表の中を探しに行きたくなるでしょう。

 

比較貸借対照表を作ることでこの現象に気づいたダウライスの工場長さんは、会計の世界における貢献者のひとりだと思います。shine

 

この本はほかにも、1830年のリヴァプール・マンチェスター鉄道が開通した時には、早速、鉄道事故もまた起こってしまい、スティーブンソンが自分で蒸気機関車を運転して、怪我人を病院まで運んだ話とか、また、会計における減価償却の提案者はイギリスのエンジニアだったというような、いろいろと興味深く、そして人間らしい会計の話がたくさん出てきます。

shine(^^)shine

|

« 違法性よりも暴力性の方が問題です。 | トップページ | 言葉の解像度 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/52049/66716446

この記事へのトラックバック一覧です: 本:「会計学の誕生」(渡邉泉著):

« 違法性よりも暴力性の方が問題です。 | トップページ | 言葉の解像度 »